はじめに
2026年7月から、民間企業の障害者法定雇用率は2.5%から2.7%へ引き上げられます。制度上は、企業がより多くの障害者を雇用することを求められる流れです。
この数字だけを見ると、障害者雇用が前進しているように見えます。
もちろん、働く機会が増えること自体は大切です。
ただ、私はこのニュースを見るたびに、少し違うことを考えます。
この0.2%は、誰の努力で達成されるのでしょうか。
障害者本人の努力でしょうか。企業の努力でしょうか。それとも、制度設計によって企業側に求められる社会的責任なのでしょうか。
ここを考えないまま雇用率だけを追いかけると、障害者雇用の本当の課題が見えにくくなります。
障害者雇用率は何のためにあるのか
障害者雇用率制度は、障害のある方の雇用機会を社会全体で確保するための仕組みです。
直近の公表資料では、民間企業に雇用されている障害者数は70万4,610人で、前年より2万7,148.5人増加し、22年連続で過去最高を更新しています。一方で、実雇用率は2.41%、法定雇用率達成企業の割合は46.0%にとどまっています。
つまり、雇用される障害者は増えています。
しかし、半数以上の企業はまだ法定雇用率を達成していません。
ここで考えたいのは、「企業が努力不足だ」という単純な話ではありません。
企業は、仕事を切り出し、職場環境を整え、支援担当者を配置し、合理的配慮を考えなければなりません。
一方で、障害のある本人にも、職場に適応する努力が求められます。
時間を守る。体調を整える。指示を理解する。苦手なことを伝える。必要な配慮を自分でも説明する。
障害者雇用は、企業だけが頑張れば成立するものではありません。本人だけが頑張れば成立するものでもありません。
企業はなぜ障害者を雇うのか
ここは、きれいごとだけでは考えられません。
企業には経営があります。
人件費があります。
生産性があります。
近年はDX化、IT化、AI活用が進み、業務の効率化が求められています。
その中で、企業がわざわざ仕事を切り出し、支援体制を整え、雇用率を達成する意味はどこにあるのでしょうか。
私は、ここに障害者雇用率制度の難しさがあると思っています。
社会的責任として障害者雇用は必要です。
しかし、企業側から見れば、単に「よいことだから雇う」だけでは続きません。
その人が職場の中で役割を持てるか。
職員の負担が過度にならないか。
事業として成立するか。
この視点も必要です。
「仕事が本人に合わせる」だけでは続かない
合理的配慮は必要です。
障害のある方が働くために、職場が環境を整えることは大切です。
ただし、合理的配慮は「仕事のすべてを本人に合わせる」という意味ではありません。
現場では、ときどき両者の期待がずれることがあります。
本人や家族は「配慮してほしい」と考える。
企業は「業務として成立する範囲で働いてほしい」と考える。
この間にズレがあると、就職しても長く続きません。
障害者雇用率を達成することと、本人が職場に定着することは別の問題です。
そして、就職した人数だけでは、その人の生活が安定したかどうかは分かりません。
働くことだけが正解なのか
私は就職を否定しているわけではありません。
就職できるなら、それは大きな選択肢です。
収入も得られます。
社会とのつながりもできます。
家族にとっても安心材料になります。
しかし、就職だけが正解ではないとも思っています。
一日数時間なら働ける人。
在宅なら力を発揮できる人。
家族と一緒なら作業を続けられる人。
雇用契約ではなく、自分で小さく稼ぐ形の方が合う人。
そういう人たちもいます。
これからの時代は、「企業に雇われる」ことだけを出口にするのではなく、在宅で自己完結できる働き方や、家族と一緒に小さく取り組む働き方も、もっと選択肢に入ってよいと思っています。
家族が考えておきたいこと
親御さんは、どうしても「就職できるかどうか」を気にします。
その気持ちはよく分かります。
ただ、私は相談を受けるとき、就職だけを見ません。
その人は何時間なら集中できるのか。
人との関わりはどの程度なら負担にならないのか。
お金の管理はできるのか。
家族はどこまで関われるのか。
在宅でできる作業はないのか。
小さくても自分で稼ぐ経験を作れないか。
ここを見ます。
障害者雇用率が上がる時代だからこそ、逆に「雇用されることだけが正解ではない」という視点も必要だと感じています。
まとめ
障害者雇用率が2.7%へ引き上げられることは、社会として大きな意味があります。
しかし、その数字だけを追いかけても、障害のある方の暮らしが本当に良くなるとは限りません。
大切なのは、何人雇用されたかだけではありません。
その人が働き続けられるか。
生活が安定するか。
家族が将来を見通せるか。
そして、就職以外の働き方も選べる社会になっているか。
私は、障害者雇用を進めることと同時に、雇用だけに頼らない働き方を育てることも、これからの福祉とFPに必要な視点だと考えています。
関連記事
- 障害年金だけで生活できる?一人暮らしの生活費をシミュレーションしてみた
- 発達障害の子どもの将来とお金
- 親亡き後問題で私が最初に確認する10項目
- 物価高で家計が苦しい…障害のある家族がいる家庭だからこそ見直したいお金の使い方
- 2040年問題とは?障害福祉・介護・お金はどう変わるのか
講演・研修のご依頼
小倉尚之(作業療法士・ファイナンシャル・プランナー・宅地建物取引士)は、障害・介護・住まい・お金を横断した講演・研修を行っています。
障害者雇用、親亡き後問題、障害年金、家計管理、在宅での働き方などについて、制度の説明だけではなく、現場での経験を交えながらお伝えしています。
詳しくは「講演・研修のご依頼について」のページをご覧ください。

コメント