障害児を育てる親に、働き方を選ぶ自由はあるのか?放デイと家計から考える

家と生活の関係

障害のある子どもを育てる親の働き方について考えるとき、私は「仕事と子育ての両立は大変です」という話だけでは足りないと思っています。

なぜなら、これは時間の問題であると同時に、お金の問題だからです。

正社員を続ける。

時短勤務に変える。

パートになる。

仕事を辞める。

どの働き方を選ぶかによって、今月の収入だけではなく、10年後の貯蓄、退職金、将来受け取る年金、そして親自身の老後まで変わる可能性があります。

ところが、障害のある子どもを育てる家庭では、その働き方を本当に自由に選べているのでしょうか。

私は、そこから考える必要があると思っています。

放デイは託児所ではありません。でも、それだけで話を終わらせていいのでしょうか

放課後等デイサービスは、学校に通う障害のある子どもたちに、放課後や長期休暇中の発達支援などを提供する福祉サービスです。

もちろん、託児所ではありません。

利用する以上、その時間が子ども本人にとって意味のあるものでなければならない。

楽しい時間を過ごす。

友達や職員と関わる。

新しい経験をする。

安心できる居場所を持つ。

必要な支援を受ける。

私は、ここを抜きにして親の都合だけで放デイを語るべきではないと思います。

しかし一方で、

「放デイは療育の場であって、親のために子どもを預ける場所ではありません」

というきれいな説明だけで、現実を語り切れるでしょうか。

親は仕事をしています。

買い物にも行きます。

家事もあります。

ほかのきょうだいと過ごす時間も必要です。

そして時には、休む時間も必要でしょう。

放デイを利用している時間に、親の時間が生まれる。

これは事実です。

むしろ大切なのは、子どもの利益と親の時間を対立させることではないと私は思います。

子どもにとって良い時間になること。

そして同時に、

親にも仕事や生活のための時間が確保されること。

その両方が成立することにこそ、福祉サービスとしての大きな価値があるのではないでしょうか。

国も「親が働くための利用」があることを知っている

これは単なる私の考えではありません。

厚生労働省の調査では、障害児や疾患のある子どもを育てながら仕事をする上で困っていることとして、**「障害のある子が利用する放課後等デイサービスの時間が短い」と答えた人が9.8%**いました。

また、厚生労働省の障害児通所支援に関する資料にも、女性の就業率上昇に伴い、保護者の就労による長時間利用のニーズが高まっていることが明記されています。

つまり国も、放デイが純粋に子どもの発達支援だけで完結するものではなく、親の就労との関係を無視できないことは認識しているわけです。

ここで私は、もう一歩踏み込んで考えたいのです。

親が働き続けられることは、本当に「親の都合」だけなのでしょうか。

親が働けることは、子どもの将来とも無関係ではありません

例えば、二つの家庭があったとします。

どちらの親も、もともとの年収は400万円だったとします。

一方は、そのまま仕事を続けることができた。

もう一方は、子どもに必要な支援との両立が難しく、年収200万円の働き方に変えた。

単純計算なら、年間200万円の差です。

10年間なら2,000万円。

20年間なら4,000万円です。

もちろん、これはあくまで分かりやすくするためのモデルケースです。現実には昇給もあれば、転職もあり、途中からフルタイム勤務に戻ることもあります。

しかし、反対に給与以外の差もあります。

賞与。

退職金。

厚生年金。

昇進による賃金上昇。

そして、本来なら貯蓄や資産形成に回せたかもしれないお金。

働き方の違いは、今月の給料だけでは終わりません。

親が60代、70代になった後の生活にまで影響する可能性があります。

そして、障害のある子どもを育てる親には、もう一つの心配があります。

自分たちがいなくなった後、この子はどう暮らしていくのか。

将来への備えを考えたい。

親自身の老後資金も必要です。

できれば子どものためにも何か残したい。

ところが、その準備をする親自身が十分に働けない。

ここに、障害児家庭が抱えるお金の問題の難しさがあります。

たった1時間の違いが、家計には何百万円の差になることもある

例えば、親の勤務時間が17時までだとします。

職場から放デイまで30分かかる。

しかし、迎えの時間は17時まで。

これだけで、現在の仕事を続けることが難しくなる家庭もあるでしょう。

あと1時間利用できれば働ける。

週にもう1日利用できれば勤務日数を減らさずに済む。

送迎があれば、今の職場を辞めなくても済む。

福祉の制度上では、「1時間」「週1日」「送迎の有無」という違いです。

しかし家計から見れば、その差が月5万円の収入差になれば、年間60万円。

10年間で600万円です。

月10万円なら、10年間で1,200万円になります。

もちろん、だからすべての放デイが長時間預かればいい、という話ではありません。

職員配置があります。

人材不足もあります。

事業所の経営もあります。

何より、その子どもにとって長時間の利用が本当に適切なのかを考えなければなりません。

だから簡単ではないのです。

しかし同時に、

「親が働けないのは家庭の事情です」

だけで終わらせることにも、私は疑問があります。

「療育のため」と「親が働くため」は、本当に分けられるのでしょうか

ある調査では、放課後等デイサービスを利用する理由として、「子どもの適切な療育」が85.2%で最も多く、次いで「子どもの居場所作り」が58.0%、「子どもの余暇の充実」が43.2%でした。

一方で、**「保護者が働くため」と答えた人も27.3%**いました。

私は、この数字が興味深いと思います。

療育のため。

居場所のため。

楽しく過ごすため。

親が働くため。

現実の家庭では、これらを一つだけ選ぶ必要があるのでしょうか。

子どもが放デイを楽しみにしている。

友達がいる。

好きな活動がある。

その時間に親は安心して仕事ができる。

それなら、子どもと親の双方に意味があります。

反対に、子どもが毎日苦痛を感じているのに、「親が働くためだから」と無理に通わせ続けるのであれば、考え直す必要があるでしょう。

だから私は、

放デイは託児所ではない。

しかし、

託児的な役割が現実に存在することまで否定する必要はない。

そう考えています。

福祉サービスを利用する家庭の生活は、制度の説明だけできれいに分けられるものではありません。

働くことだけが正解でもありません

ここで誤解してほしくないのは、私はすべての親がフルタイムで働くべきだと言っているわけではないということです。

子どもとの時間を増やしたい。

短時間だけ働きたい。

今は家庭を優先したい。

仕事を辞める。

それも一つの選択です。

問題は、

自分で選んだのか。

それとも、

ほかに選択肢がなかったのか。

です。

放デイに空きがなかった。

利用時間が合わなかった。

学童での受け入れが難しかった。

送迎できる人がいなかった。

何度も職場に頭を下げることに疲れた。

その結果として働き方を変えたのであれば、それをすべて「家庭の選択」として片付けることはできないでしょう。

一方で、福祉サービスだけですべてを解決できるわけでもありません。

だからこそ、働き方を変える前に、その選択が家計にどんな影響を与えるのかを一度数字にしてみる価値があります。

年収だけでなく、10年後、20年後まで見る

仮に仕事を辞める。

パートに変わる。

時短勤務にする。

そのとき、多くの家庭は「毎月いくら収入が減るか」を考えます。

しかしFPとしては、その先も見ます。

年間収入はいくら変わるのか。

社会保険への加入はどうなるのか。

将来の年金にどう影響する可能性があるのか。

退職金はどうなるのか。

今後の貯蓄額はどれくらい変わるのか。

住宅ローンは払い続けられるのか。

ほかのきょうだいの教育費はどうするのか。

親自身の老後資金はどうなるのか。

そして将来、障害のある子どものためにどれだけ準備できるのか。

「今は何とかなる」だけでは、家計の答えにはなりません。

働き方を変えることが悪いのではありません。

その選択によって何が変わるのかを知らないまま決めることに、私はリスクがあると思っています。

障害児支援は、家族全体の生活まで見なくていいのでしょうか

こども家庭庁は、障害のある子どもとその家族に対し、乳幼児期から学校卒業まで一貫した効果的な支援を身近な地域で提供する体制が重要だとしています。

私は、この「家族」という言葉をもっと重く考えていいと思います。

子どもに必要な支援を提供する。

それは当然です。

しかし、その子どもは家庭の中で暮らしています。

親が仕事を失う。

収入が減る。

老後資金を準備できなくなる。

家族が疲弊する。

それらが子どもの将来と無関係であるはずはありません。

だから、障害児支援において子ども本人を中心に考えることと、親や家族の生活を考えることは、対立するものではないと思うのです。

むしろ、

子どもにとって良い時間をつくりながら、親にも必要な時間をつくる。

その両立こそが大切なのではないでしょうか。

まとめ

放課後等デイサービスは託児所ではありません。

子どもにとって、その時間が安心でき、楽しく、意味のある時間になる必要があります。

しかし同時に、親がその時間に働く。

家事をする。

ほかのきょうだいと過ごす。

時には休む。

それも現実です。

私は、それを「親の都合」という言葉だけで否定する必要はないと思っています。

障害のある子どもを育てる親の働き方は、現在の収入だけの問題ではありません。

10年後の貯蓄。

退職金。

将来の年金。

親自身の老後。

そして、親亡き後の子どもの暮らしにもつながっていきます。

だからこそ問いたいのです。

障害のある子どもを育てる親は、本当に自分で働き方を選べているでしょうか。

働くことが正解なのではありません。

家庭を優先することが正解なのでもありません。

子どもにとって良い時間があり、親にも必要な時間がある。

そして家族が10年後、20年後も生活を続けていける。

私は、そこまで考えて初めて、障害のある子どもと家族を支えることになるのではないかと思っています。

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