障害年金をもらいながら働くと年金は止まる?「給料が増えるのが怖い」という誤解

生活が崩れ始めるサイン

「働いて給料が増えたら、障害年金が止まってしまうんでしょうか」

障害福祉の現場にいると、こうした不安を耳にすることがあります。

障害年金を受給しながら就労継続支援を利用している人。

一般就労を目指している人。

すでに会社で働いている人。

せっかく働けるようになっても、

「収入が増えたら年金を止められるのではないか」

「働いていることが分かったら更新できないのではないか」

と心配になることがあります。

その結果、

「だったら、あまり働かない方がいいのでは」

と考えてしまう。

しかし、これは少し整理が必要です。

障害年金には、「給料が月○万円を超えたら一律に支給停止」という仕組みがあるわけではありません。

一方で、所得によって支給が制限される障害年金もあります。

さらに、

「所得が増えたことによる支給制限」と、「障害の状態が変わったことによる等級の判断」は別の話です。

ここを一緒にしてしまうと、

「働いたら障害年金が止まる」

という話になってしまいます。

今回は、障害年金を受給しながら働く場合について、FPとして、そして障害福祉の現場で就労を支援している立場から考えてみます。


結論からいうと「働いたら障害年金が止まる」ではありません

まず、一番大事なところからです。

障害年金は、

働いて給与を受け取っただけで、自動的に支給停止になる制度ではありません。

ここは、老齢厚生年金の「在職老齢年金」と混同されることがあります。

会社で働いている。

社会保険に加入している。

給与を受け取っている。

これだけを理由に、

「障害年金は終了です」

となるわけではありません。

ただし、一つ大きな例外があります。

それが、

20歳前の傷病による障害基礎年金

です。


20歳前傷病の障害基礎年金には所得制限があります

20歳になる前に初診日がある傷病によって障害基礎年金を受給している場合には、本人の所得による支給制限があります。

日本年金機構によると、2026年度現在、扶養親族がいない場合の基準は次のとおりです。

前年の本人所得障害基礎年金
3,761,000円以下全額支給
3,761,000円超~4,794,000円以下2分の1支給停止
4,794,000円超全額支給停止

扶養親族がいる場合には、所得制限額への加算があります。

また、前年所得による支給制限は、10月分から翌年9月分までに反映されます。

ここで注意したいのが、

「給与」と「所得」は同じではない

ということです。

会社から年間400万円の給与を受け取ったから、そのまま「所得400万円」と判定されるわけではありません。

給与所得の場合は給与収入から給与所得控除を差し引いて所得を計算します。

ですから、

「年収376万円を超えたら障害年金が半分になる」

という理解も正しくありません。

自分が20歳前傷病による障害基礎年金を受給している場合には、「給与収入」ではなく、所得がいくらになっているかを確認する必要があります。


では、20歳以降に初診日がある障害年金はどうなのか

ここが今回の記事で最も伝えたいところです。

20歳前傷病による障害基礎年金とは違い、

一般の障害基礎年金や障害厚生年金について、「給与が○万円を超えたから」という理由だけで支給停止になる所得制限が設けられているわけではありません。

日本年金機構が所得による支給制限を案内しているのも、20歳前の傷病による障害基礎年金についてです。

だから、

「障害年金をもらっている人は働かない方がいい」

「給料を増やすと損をする」

と一律に考える必要はありません。

ただし、ここで話は終わりません。


「収入」と「障害の状態」は別の問題

もう一つ、障害年金を受給している人が働くときに不安になるのが、

「働いていること自体が、障害が軽くなったと判断されるのではないか」

という問題です。

これは所得制限とは別に考える必要があります。

障害年金は、その人の障害の状態が障害等級に該当するかどうかによって支給されます。

そのため、更新がある障害年金では、障害状態確認届などによって現在の状態が確認されます。

では、

会社で働けるようになったら、

「もう障害は軽いですね」

と判断されるのでしょうか。

これも、そんなに単純ではありません。


厚生労働省も「働いているだけで判断しない」としています

特に精神障害や知的障害については、厚生労働省の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が重要です。

ここでは就労について、かなり具体的な考え方が示されています。

たとえば、

  • どんな仕事をしているのか
  • どのくらい働いているのか
  • 職場でどんな援助を受けているのか
  • どんな配慮があるのか
  • 他の従業員とどのように意思疎通しているのか
  • 欠勤、遅刻、早退などはどうか
  • 就労を続けるためにどの程度の支援が必要なのか

といったことまで含めて判断します。

そして厚生労働省は、労働に従事していることだけをもって、直ちに日常生活能力が向上したと捉えないという考え方を示しています。

これは非常に重要です。


同じ「働いている」でも中身はまったく違う

私は作業療法士として働き、現在は就労継続支援B型事業所も運営しています。

現場にいると、

「働いている」という一言だけでは、その人の状態はほとんど分からない

と感じます。

たとえば週5日働いている人が2人いたとしても、

一人は、

一人で通勤して、

通常の業務をこなし、

困ったときには自分で相談し、

勤務時間も安定している。

もう一人は、

仕事内容を限定してもらい、

手順を細かく決めてもらい、

上司や支援者が頻繁に声をかけ、

体調によって仕事量を調整してもらいながら働いている。

この2人を、

「どちらも週5日働いているから同じ」

とは考えられません。

給与額だけでも分かりません。

厚生労働省のガイドラインでも、一般企業で働いている場合について、月収だけではなく就労の実態を総合的に見るとされています。

これは、福祉の現場にいる感覚とも一致します。


B型や障害者雇用で働いている場合はどうなる?

ここも心配する人が多いところでしょう。

「B型に通っているから障害年金をもらえる」

という制度ではありません。

逆に、

「B型で働いているから障害年金をもらえない」

という制度でもありません。

厚生労働省の精神障害・知的障害に関するガイドラインでは、就労継続支援A型・B型や障害者雇用制度による就労について、そこで受けている援助や配慮なども含めて障害状態を検討することになっています。

つまり重要なのは、

どこで働いているかだけではなく、どのような状態で働いているか

です。

これは一般就労でも同じです。

障害者雇用だから大丈夫。

一般雇用だからダメ。

B型だから大丈夫。

そんな単純な線引きではありません。


「障害年金を止められたくないから働かない」という選択

ここからはFPとして考えてみたいと思います。

仮に、

「働いたら障害年金が止まるかもしれない」

という不安だけを理由に、働く時間を減らしたとします。

短期的には、

年金を維持できる安心感があるかもしれません。

しかし人生は、その年の収入だけで終わりません。

5年後。

10年後。

親が高齢になったとき。

一人暮らしを始めるとき。

住み替えが必要になったとき。

自分の生活を考えるとき、

障害年金だけではなく、

給与、

工賃、

貯蓄、

住居費、

福祉サービス、

家族からの支援、

そして働き続けられる力。

これら全部が生活を支えます。

私は、

「障害年金を守ること」だけを人生設計の中心に置いてしまうのは、少し違うのではないか

と思っています。


障害年金は「働かないためのお金」ではない

障害年金は、とても大切な所得保障です。

障害によって働くことに制約があったり、生活に支援が必要だったりする人の暮らしを支えています。

だから、

「年金なんか気にせず働けばいい」

という話でもありません。

年金が生活を支えている人にとって、

支給がどうなるのか不安になるのは当然です。

だからこそ、制度を正しく知っておく必要があります。

障害年金は、

働かないことへの報酬ではありません。

そして、

働けるようになったことへの罰でもありません。

障害によって生じる生活上・就労上の制約がある中で、その人の生活を支える所得保障です。


「月いくらまでなら働いて大丈夫ですか?」には答えられない

ここまで読んで、

「では、月いくらまでなら働いても障害年金は止まりませんか?」

と思った人もいるかもしれません。

しかし、この質問には一律の金額では答えられません。

まず20歳前傷病による障害基礎年金なら、所得制限があります。

それ以外の障害年金では、単純な給与額による所得制限とは別に、障害の状態そのものが認定の対象になります。

さらに障害の種類によって、認定で確認される内容も違います。

だから、

「月10万円までなら大丈夫」

「週20時間までなら大丈夫」

といった数字だけを信じて働き方を決めるのは避けた方がいいでしょう。

少なくとも日本年金機構・厚生労働省の制度は、そのような一律の線引きにはなっていません。


本当に考えたいのは「年金+仕事+生活」です

私はFPであると同時に、障害福祉の現場で働いています。

だから障害年金について考えるとき、

年金だけを切り取ることに違和感があります。

たとえば、

障害年金8万円。

給与8万円。

合計16万円。

数字だけを見れば、収入は16万円です。

でも、その人が働くためにどのくらい支援を受けているのか。

一人暮らしなのか。

実家暮らしなのか。

家賃はいくらなのか。

通院費はいくらなのか。

親からの支援は今後も続くのか。

働く時間を増やせるのか。

逆に体調が悪化したとき、働く時間を減らせるのか。

ここまで見なければ、その人の生活は分かりません。

以前、このブログで「障害年金だけで暮らせるのか」という記事を書きました。

そこで書いたのも同じことです。

大切なのは、

年金がいくらあるかだけではなく、その収入でどんな生活を組み立てられるか

ということです。


働けるようになったときこそ、生活設計を考える

障害のある人が、

B型からA型へ。

B型から一般就労へ。

短時間勤務から勤務時間を増やす。

こうした変化が起きたとき、

私はむしろ生活設計を見直す良いタイミングだと思います。

給与はいくら増えるのか。

障害年金はどうなるのか。

税金や社会保険料はどう変わるのか。

住まいはどうするのか。

貯蓄はいくらできるのか。

将来、一人暮らしをするならいくら必要なのか。

働くことで収入が増えるなら、

そのお金を単に「今月使えるお金」として見るのではなく、

これから選べる生活を増やすお金

として考えることもできます。


年金を守ることではなく、生活を守る

「働いたら障害年金が止まるのではないか」

その不安から始まった話ですが、私は最終的にはここだと思っています。

守りたいのは、

障害年金そのものではなく、その人の生活です。

障害年金が必要なら、制度を正しく利用する。

働けるなら、その人に合った形で働く。

支援が必要なら、支援を受ける。

そして収入と支出を考えながら、住まいや将来の暮らしを組み立てていく。

年金か仕事か。

どちらか一つを選ぶ話ではありません。

障害年金、仕事、福祉サービス、住まい、家計を組み合わせて、どう生活をつくっていくのか。

そこまで考えることが、障害のある人のライフプランニングなのだと思います。


福祉とお金の相談をお受けしています

障害年金を受給しながら働きたい。

一般就労した場合の生活費を考えたい。

一人暮らしを始めたい。

親亡き後の生活が心配。

こうした問題は、年金だけ、仕事だけ、住まいだけを見ても答えが出ないことがあります。

福祉特化FPでは、障害・仕事・家計・住まい・福祉サービスを含め、これからの生活を一緒に整理する相談をお受けしています。

また、障害のある人と家族のお金、障害者雇用、親亡き後、福祉と生活設計などをテーマとした講演・研修についてもご相談いただけます。


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制度を確認したい方へ

今回の記事では、2026年9月時点で日本年金機構の令和8年度資料および厚生労働省の障害年金に関する認定資料を確認しています。

日本年金機構「障害のある方」

日本年金機構「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」

厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」

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