病気は、仕事を辞める日を選ばせてくれません。

生活が崩れ始めるサイン

パーキンソン病の歯科医師から教えられた「人生を引き継ぐ準備」

「先生、いつまで働くつもりですか。」

そんな質問をされたら、多くの人は「体が動く限り」と答えるのではないでしょうか。

特に自営業や開業医の方であれば、仕事は単なる収入源ではありません。

長年積み重ねてきた人生そのものです。

しかし、病気は私たちの予定どおりには進みません。

私は作業療法士として病院で勤務していた頃、一人の歯科医師の先生を長く担当していました。

先生はパーキンソン病でした。


「まだ診療はできます」

最初の頃は外来へ通院しながら診療を続けていました。

住居と医院が一体になった建物で、地域に根差した歯科医院でした。

長年、多くの患者さんの口の健康を支えてきた先生です。

薬を調整しながら仕事を続け、必要に応じて入院を繰り返す生活になっても、

「まだ診療はできます。」

そんな思いを持ち続けていました。

私がリハビリを担当し始めた頃も、先生は現役の歯科医師でした。


少しずつ仕事を手放していく

しかし、病気は少しずつ進行していきます。

診療中に必要な細かな手の動き。

長時間集中すること。

思うように身体が動かない日も増えていきました。

その頃から、少しずつ息子さんが診療を担当するようになります。

最初は一部だけ。

そのうち診療の多くを任せるようになり、最後には先生自身が診療室に立つことはなくなりました。

ある日突然仕事を辞めたわけではありません。

何年もかけて、自分の仕事を少しずつ手放していったのです。


後継者がいても、すべてが解決するわけではありません

先生には医院を継ぐ息子さんがいました。

多くの方が「それなら安心ですね」と思うかもしれません。

しかし、人生はそれほど単純ではありません。

やがて医院は閉院し、ご夫婦は札幌へ移り住むことになりました。

そして、住居兼医院だった建物は、現在も空いたままになっています。

建物には思い出があります。

地域との歴史があります。

患者さんとの時間があります。

しかし現実には、

「思い出」と「資産」は同じではありません。

建物は維持しなければなりません。

売却できるとは限りません。

住居兼医院という特殊な建物は、新しい買い手が簡単に見つかるものでもありません。

人生の最後には、病気だけではなく、

仕事、

住まい、

家族、

そしてお金の問題が、一度に押し寄せてきます。


「いつまで働くか」より、「働けなくなったらどうするか」

ファイナンシャル・プランナーというと、保険や資産運用の相談を思い浮かべる方が多いかもしれません。

もちろん、それらは大切です。

しかし、病院で多くの患者さんと関わってきた私は、それ以上に大切な準備があると感じています。

それは、

「働けなくなった時の準備」

です。

仕事を誰が引き継ぐのか。

廃業という選択肢はあるのか。

住まいはどうするのか。

家族はどこで暮らすのか。

元気なうちは、「まだ先の話」と思ってしまいます。

しかし、病気はそのタイミングを選ばせてくれません。


まとめ

私はあの先生から、パーキンソン病についてだけではなく、人生について多くのことを学びました。

仕事を辞める日は、自分で決められるとは限らないこと。

家を残すことが、そのまま家族の安心につながるわけではないこと。

そして、人生を引き継ぐ準備は、元気なうちにしかできないこと。

私たちは「いつまで働くか」は考えても、「働けなくなったらどうするか」を考える機会は意外と少ないものです。

だからこそ、今元気なうちに、一度だけでも家族と話してみてはいかがでしょうか。

それは、自分自身のためだけではありません。

大切な家族が困らないための準備でもあるのです。


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