障害のある子のライフプランニング― 親亡き後ではなく、親が元気な今から考えたいこと ―

親亡き後問題

第一章 親は何に不安を感じているのでしょうか

「この子は卒業したら、どこで働くことになるのでしょうか。」

支援学校の実習を受け入れていると、保護者の方からこうした質問を受けることがあります。

毎日通えるでしょうか。

人間関係は大丈夫でしょうか。

一般就労は難しいでしょうか。

B型事業所はどんなところでしょうか。

生活リズムは保てるでしょうか。

初めて親元を離れ、社会へ送り出すようなものです。

不安になるのは当然です。

私はこの不安を否定するつもりはありません。

むしろ、その不安があるからこそ、ご家族は学校と相談し、実習を重ね、本人に合った進路を真剣に考えます。

しかし、私は毎年この実習を受け入れながら、一つ気になっていることがあります。

卒業後の話はたくさんするのに、その先の人生について話すことがほとんどありません。

これは学校が悪いという話ではありません。

保護者が悪いという話でもありません。

本人が悪いわけでもありません。

そうではなく、人は目の前に迫った問題を優先して考える生き物だからです。

たとえば高校三年生であれば、卒業まであと数か月しかありません。

進路を決めなければならない。

実習を成功させなければならない。

生活リズムを整えなければならない。

その時期に、

「三十歳になった時、どんな生活をしているでしょう。」

そんな話をする余裕はありません。

だから、まずは卒業後の生活に適応すること。

その後のことは、その時になってから考えよう。

言葉にはしなくても、多くのご家族がそのように考えているように感じます。

それは決して間違いではありません。

目の前の課題を一つずつ乗り越えることは、とても大切です。

しかし、一方で私はこうも思います。

人生は、卒業したところから始まるのです。

学校生活は十数年です。

その後の人生は五十年、六十年と続いていきます。

就職できるかどうか。

どこで働くのか。

一人暮らしをするのか。

親と暮らし続けるのか。

障害年金はどうなるのか。

グループホームという選択肢はあるのか。

兄弟姉妹との関係はどうなるのか。

親が高齢になった時、誰が支えるのか。

実は本当に難しい問題は、卒業後に少しずつ始まっていきます。

私は就労継続支援B型事業所を運営しています。

支援学校を卒業したばかりの利用者さんもいれば、二十代、三十代、四十代になって利用される方もいます。

その方々を見ていると、卒業した時には想像もしていなかった出来事が、本当にたくさん起こります。

親が離婚することもあります。

親が病気になることもあります。

本人が病気になることもあります。

働き続けられると思っていた仕事を辞めることもあります。

逆に、「この人には難しいかもしれない」と思われていた方が、何年も働き続けることもあります。

人生は予定通りには進みません。

だからこそ、私は障害のある子どものライフプランニングとは、「将来を当てること」ではないと思っています。

未来は誰にも分かりません。

十年後に何が起こるかも分かりません。

だから必要なのは、「未来を予測すること」ではなく、「どんな未来になっても選択できる力を持つこと」です。

ところが現在、ライフプランニングという言葉を聞くと、多くの方は最初にお金を思い浮かべます。

NISA。

保険。

障害年金。

教育資金。

もちろん、それらは大切です。

しかし私は、その順番に少し違和感があります。

お金を考える前に、考えなければならないことがあるのではないでしょうか。

それは、

「この子に、どんな人生を送ってほしいのか。」

という問いです。

この問いがないまま、お金だけを準備しても、本当の意味でのライフプランニングにはならないと、私は現場で感じています。

第二章 ライフプランニングとは、お金を考えることではありません

私は支援学校の実習を受け入れるだけではなく、その後も就労継続支援B型事業所で利用者さんと関わり続けています。

だから卒業後の人生を見続けることになります。

ここで、学校にいた頃には想像もしなかった出来事を数多く目にしてきました。

ある利用者さんは、支援学校を卒業し、事業所へ通い始めました。

親御さんは離婚され、お母さんと二人で暮らしています。

現在は生活が安定しており、本人も毎月約5万円の工賃をほとんど使わず貯金しています。

とても立派なことです。

しかし、私は時々考えます。

この貯金は、何のために積み立てているのでしょうか。

本人も、お母さんも、一生懸命生活しています。

だから責めるつもりは全くありません。

それでも、将来どのような生活を目指すのかという話までは、まだたどり着いていません。

一方で、別の利用者さんは二十一歳で統合失調症を発症しました。

現在は実家で暮らしています。

お母さんは運送会社で事務職として懸命に働いています。

本人は動画投稿などをしていますが、生活の中心となる役割はまだ見つかっていません。

このご家族も、毎日の生活を維持することで精一杯です。

では、このご家族に

「NISAを始めましょう。」

と言えば解決するのでしょうか。

私はそうは思いません。

もちろん資産形成は大切です。

しかし、その前に考えなければならないことがあります。

本人は将来どのように社会と関わっていくのか。

働くことを目指すのか。

福祉サービスを利用しながら生活するのか。

一人暮らしという選択肢はあるのか。

地域とのつながりはどう作っていくのか。

ここが見えなければ、お金を準備する目的も見えてきません。

ファイナンシャル・プランナーは、お金の専門家です。

だからこそ、お金の話をします。

しかし私は、作業療法士として二十年以上、そしてB型事業所を運営する立場として、多くの人生を見てきました。

その経験から言えることがあります。

人生は、お金から設計するものではありません。

人生を設計した結果として、お金の準備が決まるのです。

例えば、一人暮らしを目指す人と、親と暮らし続ける人では必要なお金は違います。

一般就労を目指す人と、福祉的就労を続ける人でも違います。

兄弟姉妹に頼ることを考えている家庭と、できるだけ本人だけで生活できるよう準備したい家庭でも違います。

同じ「障害のある子ども」と言っても、必要なライフプランは一つではありません。

だから私は、ライフプランニングとは

「お金を増やす方法を考えること」ではなく、人生の選択肢を整理することだと思っています。

そして、その人生を支えるために、お金や制度をどう活用するかを考える。

私は、この順番がとても大切だと考えています。

第三章 人生を設計するとは、何を設計することなのでしょうか

ここまで私は、障害のある子どものライフプランニングは「お金を考えること」ではなく、「人生を考えること」だと書いてきました。

では、人生を考えるとは何を考えることなのでしょうか。

私は、人生を設計するとは、**「将来を予測すること」ではなく、「人生を構成する要素を一つずつ整理すること」**だと考えています。

例えば、多くの親御さんは「将来が不安です」と話されます。

しかし、「何が不安なのですか」と尋ねると、すぐに答えられる方はあまり多くありません。

それは当然です。

将来への不安は、一つの不安ではなく、いくつもの不安が重なっているからです。

働けるだろうか。

生活していけるだろうか。

親が亡くなったらどうなるのだろうか。

病気になったらどうしよう。

お金は足りるのだろうか。

一人暮らしはできるのだろうか。

兄弟に負担をかけないだろうか。

つまり、「将来が不安」という言葉の中には、いくつものテーマが混ざっています。

だから私は、最初にその不安を分解することがライフプランニングだと考えています。

まずは「働く」です。

どのような働き方が本人に合っているのでしょうか。

一般就労なのか。

福祉的就労なのか。

それとも、今は体調を整える時期なのでしょうか。

次に「暮らす」です。

親と暮らすのでしょうか。

一人暮らしでしょうか。

グループホームという選択肢もあります。

そして「健康」です。

障害の状態は変化しないでしょうか。

年齢とともに新たな病気が加わることはないでしょうか。

さらに「人とのつながり」です。

学校を卒業した後も、相談できる人はいるでしょうか。

地域との関係は続いているでしょうか。

そして最後に「お金」です。

ここで初めて、お金の話になります。

私は、お金を軽く考えているわけではありません。

むしろ、とても大切だと思っています。

しかし、お金は人生の目的ではありません。

人生を支える手段です。

そのことを強く考えさせられた利用者さんがいました。

学生時代から努力を重ね、有名大学を卒業し、大手企業へ就職しました。

将来に備え、投資にも取り組み、資産形成も進めていました。

ところが、若くして脳卒中を発症し、片麻痺が残りました。

仕事は大きく変わり、その後、投資先のトラブルで多額の負債を抱えることになります。

現在は障害年金を返済に充て、福祉的就労による工賃で生活を続けています。

この方を見ていて、私は一つのことを考えました。

お金を準備していても、人生そのものが変われば計画は崩れる。

逆に言えば、お金だけでは人生は支えられません。

働き方。

住まい。

制度。

人とのつながり。

家族。

健康。

こうしたものも含めて準備していたなら、人生が変わったとしても、別の選択肢を探すことができたかもしれません。

だから私は、ライフプランニングとは、お金の計画ではなく、

「人生を構成する一つひとつの要素を整理し、変化に備えながら選択肢を増やしていくこと」

だと考えています。

第四章 ライフプランニングは、一度作れば終わりではありません

ここまで私は、ライフプランニングとは「人生を設計すること」だと書いてきました。

しかし、その設計図は一度作れば完成するものではありません。

人生が変われば、ライフプランも変わります。

親が元気な頃に立てた計画が、十年後もそのまま通用するとは限りません。

本人の体調が変わることもあります。

家族構成が変わることもあります。

社会制度が変わることもあります。

だからライフプランニングとは、一枚の設計図を完成させることではなく、その時々の人生に合わせて何度も描き直していくものだと私は考えています。

現在、私の事業所に通われている六十代の利用者さんも、そのような転機を迎えた一人です。

長年、お母様と二人で暮らしていましたが、昨年、お母様が亡くなられ、一人暮らしになりました。

近くにはご兄弟が住んでいますが、同居ではなく、何かあったときに様子を見に来てくれる程度です。

身体に障害があり、移動には両松葉杖が必要なため、生活範囲は限られています。

若い頃には自宅で和裁の仕事を請け負っていた時期もありましたが、それもずいぶん前のことです。

近年は、日中を自宅で過ごす日がほとんどでした。

経済的には大きな問題はありません。

障害年金はほとんど手を付けずに生活されており、持ち家もあります。

お金だけを見れば、「困っていない」と言える状況だったかもしれません。

しかし、私は別のところに課題があると感じていました。

これから先の二十年、三十年を、どのように過ごしていくのか。

そこが、まだ決まっていなかったのです。

そこで事業所の利用を提案しました。

もちろん工賃を得ることも目的の一つです。

しかし、それ以上に大きかったのは、生活の中に新しい役割が生まれたことでした。

決まった日に外出する。

仲間や職員と話をする。

自分の仕事が誰かの役に立つ。

家で一日が終わる生活ではなく、「今日は何をしようか」と考える毎日が始まりました。

私たちとのつながりができたことも、大きな変化だったと思います。

困ったときに相談できる場所がある。

体調や生活の変化を一緒に考える人がいる。

これは、お金では買うことのできない安心です。

私は、この方の人生が劇的に変わったとは思っていません。

しかし、これから先の人生を見直すきっかけにはなったと感じています。

ライフプランニングとは、お金を増やすことではありません。

生活を見直し、人とのつながりを見直し、自分の役割を見直し、その結果として、お金の使い方や制度の活用を考えていくことです。

この利用者さんにとって、事業所へ通い始めたことは「福祉サービスを利用した」という出来事ではありません。

人生の設計図を描き直し始めた第一歩だったのです。

だから私は、ライフプランニングとは完成させるものではなく、人生の節目ごとに何度でも見直していくものだと考えています。

第五章 今日から始めるライフプランニング ― 親が元気な今だからこそできること

ここまで、私はライフプランニングについて書いてきました。

しかし、この記事を読まれた親御さんの中には、

「考え方は分かった。でも、明日から何をすればいいのでしょうか。」

そう思われる方もいらっしゃると思います。

私は、ライフプランニングとは特別な知識がなければ始められないものではないと考えています。

むしろ、大切なのは難しい制度を覚えることではなく、親子で将来について話す時間を持つことです。

支援学校の実習を受け入れていると、卒業後の進路については何度も話し合います。

「一般就労がいいのか。」

「福祉的就労がいいのか。」

「どの事業所が合っているのか。」

しかし、その先の人生について話す機会は決して多くありません。

それは当然です。

目の前の卒業が大きな課題だからです。

だからこそ、卒業後に少し生活が落ち着いたタイミングで、一度立ち止まって考えてみてほしいのです。

この子は、どんな毎日を送りたいのだろう。

どんな仕事なら続けられるだろう。

誰と関わりながら暮らしていくだろう。

困ったとき、相談できる人はいるだろうか。

親が高齢になったとき、生活はどう変わるだろうか。

その問いに、すぐ答えが出る必要はありません。

大切なのは、親子で一緒に考え続けることです。

そして、その中で一つお願いしたいことがあります。

「できないこと」だけを数えないでください。

障害があると、「何ができないか」に目が向きがちです。

しかし、ライフプランニングで本当に大切なのは、「何ができるか」「何を増やしていけるか」という視点です。

働く場所を一つ増やす。

相談できる人を一人増やす。

地域とのつながりを一つ作る。

趣味を一つ持つ。

役割を一つ増やす。

それは一見、小さな変化に見えるかもしれません。

しかし、その積み重ねが十年後、二十年後の人生を支えていきます。

私は、ライフプランニングとは未来を当てることではなく、未来の選択肢を増やしていく作業だと思っています。

人生には予想できない出来事が必ず起こります。

病気になることもあります。

家族の形が変わることもあります。

制度が変わることもあります。

だからこそ、一つの正解を探すのではなく、どのような状況になっても選択できる力を育てていくことが大切なのです。

最後に、私はファイナンシャル・プランナーであり、作業療法士でもあります。

この二つの資格を持っているからこそ、強く感じることがあります。

人生は、お金だけでは豊かになりません。

しかし、お金がなければ困る場面もあります。

また、働くことだけが幸せではありません。

しかし、社会とのつながりがなければ孤立してしまうこともあります。

だから私は、ライフプランニングとは「お金」「制度」「仕事」「住まい」だけを考えるものではなく、その人らしい人生全体を考えることだと思っています。

障害のある子どもにも、一人ひとり違う人生があります。

親御さんにも、それぞれ違う思いがあります。

正解は一つではありません。

親子で将来について話し合うこと。

一人で抱え込まず、周囲とつながること。

そして、その時々の人生に合わせて何度でも設計図を書き直していくこと。

私は、その積み重ねこそがライフプランニングだと考えています。

では最後に、私がなぜこのテーマを書こうと思ったのかをお伝えしたいと思います。

第六章 ライフプランニングとは、人生をあきらめないための準備です

この記事では、障害のある子どものライフプランニングについて考えてきました。

支援学校を卒業する前に抱える親御さんの不安。

ライフプランニングは、お金を考えることではなく人生を考えることだということ。

人生を設計するとは、働くこと、暮らすこと、人とのつながり、住まい、健康、そしてお金を一緒に考えることだということ。

そして、その設計図は一度作れば終わりではなく、人生の変化に合わせて何度でも描き直していくものだということを書いてきました。

では、私はなぜここまでライフプランニングという言葉にこだわるのでしょうか。

それは、これまで出会ってきた多くの利用者さんが、「人生はもう決まってしまった」と思いながら生活していたからです。

障害があるから仕方がない。

働けないから仕方がない。

年齢を重ねたから仕方がない。

親が高齢だから仕方がない。

そうした言葉を、私は何度も耳にしてきました。

しかし、実際に現場で利用者さんと関わっていると、人生はそんなに単純ではありません。

新しい仕事に挑戦する方もいます。

何年も家から出られなかった方が、少しずつ地域とのつながりを取り戻すこともあります。

六十代になって初めて、自分の役割を見つける方もいます。

反対に、順風満帆だった人生が病気や事故をきっかけに大きく変わることもあります。

私は、その両方を見てきました。

だからこそ、「障害があるから」「年齢が高いから」「今までこうだったから」と、人生を決めつけたくありません。

未来は予測できません。

だからこそ、未来をあきらめる理由もないのです。

ライフプランニングとは、未来を言い当てることではありません。

未来に起こる変化に備えながら、その時々で最善の選択ができるよう準備しておくことです。

その準備とは、お金だけではありません。

働く場所があること。

相談できる人がいること。

地域とのつながりがあること。

安心して帰れる住まいがあること。

そして、自分には役割があると思えること。

そうした一つひとつの積み重ねが、その人の人生を支えていきます。

私は作業療法士として、「その人らしい生活」を支える仕事を続けてきました。

そして、ファイナンシャル・プランナーとして学んだことで、お金や制度も人生を支える大切な要素であることを改めて実感しました。

だから私は、この二つを別々には考えていません。

生活を支えることと、お金を支えることは、本来一つのものだと思っています。

障害のある子どものライフプランニングとは、親がすべてを決めることではありません。

子どもの人生を親子で考え、その時々で一緒に選択し、一緒に修正しながら歩んでいくことです。

その積み重ねが、将来どのような出来事が起きたとしても、「この人生でよかった」と思える時間につながっていくのではないでしょうか。

私は、そう信じています。


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