はじめに
障害のある子どもを持つ親からよく聞く言葉があります。
「この子に少しでも多く財産を残してあげたい」
親として当然の思いです。
しかし、親亡き後問題を考えるとき、実は「いくら残すか」以上に大切なことがあります。
それは、
「残した財産を誰が管理し、どう使い続けるのか」
です。
現場では、
十分な財産があっても生活が不安定になる人がいます。
逆に大きな資産がなくても、安定して地域で暮らしている人もいます。
その違いは何なのでしょうか。
障害のある方の親亡き後問題は増えている
日本には約1,164万人の障害のある方がいると推計されています。
人口の約9.3%に相当します。
また、障害のある方の高齢化も進んでいます。
厚生労働省の調査では、65歳以上の知的障害者の割合は約22.6%と推計されています。
親世代が80代。
子ども世代が50代から60代。
こうした親子高齢化は珍しいものではなくなりました。
つまり、
「親が亡くなった後どうするか」
だけでなく、
「親が支援できなくなった後どうするか」
が大きな課題になっています。
財産を残しても安心できない理由
多くの人は、
財産が多ければ安心だと思います。
しかし現実はもっと複雑です。
例えば、
- 預金が数千万円ある
- 持ち家がある
- 相続人もいる
にもかかわらず、
生活が不安定になるケースがあります。
理由は単純です。
お金そのものではなく、
お金を管理する力や仕組みが不足しているからです。
知的障害や精神障害がある場合、
契約や財産管理が難しいことがあります。
また悪質商法や詐欺の対象になるリスクもあります。
親が管理していた時には問題がなくても、
親亡き後に初めて課題が表面化することがあります。
相続で起きやすい3つの問題
① 金銭管理
相続した預金を計画的に使えない。
必要な支出と不要な支出の区別が難しい。
こうした問題は珍しくありません。
② 親族間のトラブル
「誰が面倒を見るのか」
「誰が管理するのか」
という問題が発生します。
兄弟姉妹がいても、
全員が同じ考えとは限りません。
③ 住まいの問題
親の家を相続しても、
その家で暮らし続けられるとは限りません。
高齢化した住宅は、
バリアフリー化や維持管理が必要になる場合があります。
空き家になるケースもあります。
成年後見制度とは
親亡き後対策としてよく紹介される制度です。
判断能力が不十分な方に代わり、
財産管理や契約手続きを支援します。
メリット
- 財産管理ができる
- 法的に保護される
- 悪質商法対策になる
デメリット
- 一度開始すると原則継続
- 家庭裁判所への報告が必要
- 柔軟な資産運用は難しい
制度として重要ですが、
万能ではありません。
家族信託という選択肢
近年注目されている仕組みです。
親が元気なうちに、
信頼できる家族へ財産管理を託します。
成年後見より柔軟な運用が可能な場合があります。
ただし、
家族関係や財産状況によって向き不向きがあります。
専門家への相談が必要です。
遺言書でできること、できないこと
遺言書は非常に重要です。
しかし、
遺言書だけで生活は支えられません。
遺言書で決められるのは、
主に財産の分け方です。
一方で、
- どこに住むのか
- 日中どこへ通うのか
- 誰が見守るのか
は決められません。
ここに親亡き後問題の難しさがあります。
本当に残すべきもの
私は作業療法士として、
また就労継続支援B型事業所の運営者として、
多くの方の生活を見てきました。
その中で感じるのは、
本当に残すべきものは財産だけではないということです。
① 安定した住まい
グループホーム
一人暮らし
家族との同居
選択肢を知っておく。
② 収入の仕組み
障害年金
就労収入
工賃
資産収入
生活を支える全体像を把握する。
③ 支援者
相談支援専門員
ヘルパー
事業所
医療機関
親以外とのつながりを作る。
④ 日中活動
働く場所
通う場所
地域との接点。
⑤ 財産管理の仕組み
成年後見
家族信託
遺言
必要な制度を検討する。
FPとして考える親亡き後対策
FPの視点で見ると、
重要なのは資産額ではありません。
重要なのは、
その人が亡くなるまで生活を維持できるかどうかです。
例えば、
預金2,000万円があっても、
毎月の赤字が続けば資産は減ります。
逆に、
障害年金と就労収入で収支が安定していれば、
大きな資産がなくても生活は継続できます。
相続対策は、
「いくら残すか」
ではなく、
「どう使い続けるか」
まで考える必要があります。
まとめ
障害のある子どもに財産を残すことは大切です。
しかし、
財産だけでは生活は守れません。
本当に必要なのは、
住まい
収入
支援者
日中活動
財産管理
を含めた生活設計です。
親亡き後問題は相続対策ではありません。
その人らしい生活を続けるための準備なのです。


コメント